長く出張が続き久しぶりのブログです。
先々週に北海道知床へ往診に行っていたのですが、滞在中に女性初の全日本女子柔道監督に塚田真希さんが就任されたことが発表されました。実は塚田真希さんとは、この知床での懐かしい思い出がありますので紹介させて頂きます。
オリンピック金メダリストと世界選手権金メダリスト
北京五輪前に私は薪谷 翠さんという女子柔道無差別級の世界選手権金メダリストの施術を担当させて頂いていたのですが、この薪谷さんの親友が塚田真希さんだったのです。いわば薪谷 翠さんと塚田真希さんはオリンピックでの最重量級で日本代表の切符を争うライバルなのに大親友だという不思議な関係だったのです。
知床と塚田さんの関係
私は柔道漬になっている薪谷 翠さんをリフレッシュさせようと、北海道合宿に合わせて私がよく往診に行っている知床半島のウトロへ連れて行ってあげました。そこへ薪谷さんが塚田さんを連れて一緒に来られたのです。
そして知床では漁師さんの先導で漁を見せて頂いたり、知床の灯台の近くの番屋(漁の拠点)で泊めて頂いたりと、水温は低いもののオホーツクでの海水浴や知床の大自然を満喫した一日を薪谷さんと塚田さんと過ごしました。1泊2日の旅でしたが、とれたての鮭やバフンウニをカレーライスの様にして食べたり、海からあがったばかりのカニやホタテを調理したりして通常では味わう事が出来ない貴重な経験をさせて頂きました。
この時知床半島の「番屋」でお世話になったのが、以前2020年4月20日のブログ「NHKスペシャル ヒグマと老漁師」で紹介させて頂いた大瀬初三郎さんです。「熊を操る名人」としてNHKや様々なメディアで紹介されたこともある船頭さんです。
薪谷 翠選手
ライバルでもあり仲間でもあるその2人の関係に興味を持った私は、自身がレスリング選手であったことからどうしても世界を極めた2人の奥義を知りたく観察させて頂いていました。
薪谷 翠さんは一言で言うと妥協を許さない猪突猛進型の選手でした。そして左右の多彩な技を放てる器用さがあり、階級を落としても十分に通用する俊敏な動きが特徴でした。ただ、海外試合で開放骨折(皮膚から骨が突きだす)を伴う膝の脱臼をし「医学的にも柔道的にも復帰は絶望的」と思われていましたが、再び全日本選手権や世界選手権の大舞台に立って世界選手権では金メダルを獲得したという大奇跡を起こした苦労人でもあります。苦難を克服した真のエリートです。薪谷さんと私はとても相性が良く、大変気心が知れていて何でもしゃべるし、ニックネームで呼ぶ間柄でもありました。実は見た目と違って、とても「シャイ」で、そして「乙女」な一面もある可愛らしい選手でした。
塚田真希選手
彼女とはこの知床の旅で初めてお会いしたのですが、既にアテネオリンピックで金メダルを獲得されていてオリンピックでの連覇を目指されていたので、どの様な方なのか興味津々でした。
塚田真紀選手の特徴として平素はかなり「おっとり」していて、薪谷選手に対しても「兄貴」と茶目っ気あるしゃべり方で「本当にオリンピックの金メダリスト?」と思えるくらいでした。特に印象的だったのは私が現地で患者さんを診たり、選手たちのアテンドをしたりと、多忙を極めている中で、車の鍵などをどこに持っているのか失念して探していたところ、塚田選手が「先生が忙しそうだったので私が必要なものをお預かりしていました~」とレンタカーやホテルの部屋の鍵を渡してくれたというエピソードがありました。また、知床半島を後にして空港で別れる時に、当時まだ中学生だった私の娘に対して自身のカバンを床において両手でしっかりとお別れの握手をして下さるという配慮ある素晴らしい選手であった思い出があります。
実際に塚田真希選手と話をしていても、私が「塚田さんは体調や気分がすぐれない時は練習を休み、できる時にはガンガンやるタイプでしょ?」と問いかけたところ、塚田選手も「先生、なんでわかるのですか?私も腰が悪く、体力面での限界が分かっているので、できる時にはとことんやって体調の悪い時には無理せずセーブするように心がけています」と周りへの配慮もそうなのですが、何事も気負うことが無く冷静に分析するタイプの選手で、自身のコントロールなどマネージメント力がとてもある方だという印象が強く残っています。
こんな塚田さんだからこそ、今までの柔道界の特徴であった「精神論」「根性論」だけではない「科学的」そして「論理的」な考えをこれからの女子柔道チームに取り入れ育成していかれるものだと確信しています。
新監督への期待
以前のブログにて男子柔道監督の鈴木桂治さんを紹介させて頂きましたが、男女それぞれの監督が私たちと縁の深い方々という事で、パリの屈辱を晴らす如くロサンゼルスオリンピックでは怒涛の勢いでメダル量産をしてくれるものと期待しています。
ちなみに下記はいつも知床に行ったら美味しい料理を出して下さる「海鮮料理 番屋」さんです。